読書の秋

 

ジャンル:栞との思い出 / 公開日:2023/10/15 /

       

小学3年生の秋。
朝の通学の時間。玄関を開けて外に出てみると、すっかり晩夏の名残は消えて少し冷たい風が頬を通り抜け、穏やかな晴天に身が包まれる。

「ね~え~、おはよ~♪ほら、早く行こうよ♪」

「わ、分かったって!!おはよう!!」

門の前から近所に住んでいる幼馴染みの栞の声がする。
待ちくたびれたという表情から、すぐさま明るい太陽のような笑みを浮かべている。

小学校までは歩いて約15分程。
遠いようで長いようで短い道のり。

「おはよーございまーす!」

「あらあら、気を付けていってらっしゃいね♪」

道ゆく人や、ご近所の主婦。
すれ違い目に入る人全員に元気よく挨拶を交わす幼馴染み。
端から見れば、手を繋いで仲良く投稿している小学生。

「あ、見て見て!あの黄色いお花、キンモクセイって言うんだって!この前ねぇねに教えてもらったのー!あ、そう言えば香織ねぇね元気?また夏みたいにみんなで遊びたいね!」

「お姉ちゃんは…元気だよ。でも、最近合気道とか習い事で忙しそうで、ピリピリしてるかも…」

3歳上のお姉ちゃん。最近身長も伸びて力も強くなり、その上日々合気道の鍛練をしていることもあり、家の中では絶対に逆らえなくなっていた。

まだ幼稚園児ぐらいの頃は、くすぐられてもギリギリやり返すことができた(その後100倍返しにされた)けど、今では少しでも反抗したり抵抗する素振りを見せようものなら、一瞬で組伏せられて泣いてごめんなさいするまでこちょこちょされてしまう…。

ぅぅ…思い出すだけでも身震いしてしまう…

「どうしたの~?寒いの?大丈夫?」

「だ、大丈夫!」

「そう?それならいいけど…」

顔色を心配されるが、平気なフリ。
そうこうしている内に、小学校の門扉へとたどり着いた。

**
何故かは分からないけど、幼稚園にいた時から幼馴染みとは同じクラスになっていた。

小学3年生の教室。
年に数回ある席替えでも、席の場所が移動するだで隣の席に幼馴染みはいた。

男女比はほぼ半々のクラス。
「女の子が男の子を躾る」という学校の教育方針もあり、女子と男子がペアになってくすぐりを取り入れた授業が行われている。

2人で教室に入った時、すでに登校していた男子が隣の席の女子に座ったまま後ろから執拗に脇腹をもみこまれて、ひぃひぃと大きな笑い声を響かせていた。

とりあえず自分の席に着いてランドセルを机の上におろす。
時刻は8:15。始業まで後15分くらいある。

今日は学校でやりたいことがあった。
ワクワクとした気持ちで荷物を出そうとすると…

「みんな楽しそうにこちょこちょしてる~♪だから、私もくすぐっていいよね?」

「ひっ!?や、今はやめっ…」

隣を見ると、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた幼馴染みが指をワキワキと見せつけるように動かしてゆっくりと近づいていた。

「なんで?もしかして体調悪いの?それなら止めるけど…でも、嘘ついたらどうなるか分かるよね?」

首の両側からピタッと指を添えられて、目を覗き込むようにして見つめられる。

下手に嘘をついて誤魔化せるほど、栞は甘くなかった。
ここは素直に話した方が身のためだろう…。

「その、ほ、本…読みたいから」

「本…?あ、そっか!今日から朝読書の時間あるもんね♪私も持ってきたんだった♪ねぇねぇ、どんな本持ってきたの?」

パッと人質が解放されたかのように、首筋から指先が離れていく。「ほっ…」と深呼吸。

一昨日の土曜日。珍しく仕事が早く終わって帰宅した母に、月曜日から朝に読書をする時間があることを話したら、「じゃあ1冊だけ好きな本買ってあげる」と本屋に連れて行ってくれた。1時間くらいじっくり悩んで選んだのは、結局表紙で選んだ児童向けの小説だった。

真新しい紙のブックカバー。
手に取るだけでワクワクとした気持ちになった。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーン…

幼馴染みと話している内に、チャイムが鳴り響いていた。
気付けば他の生徒も登校して、教室の中は賑やかな空気に包まれている。

程なくして、担任の小林先生が教室に入ってきた。

「は~い、皆さんおはようございます♪今日から朝読書の時間が始まりますが、ちゃんと本持ってきましたか~?」

「はーい!!」

眼鏡をかけた、優しい雰囲気の先生が統治するクラス。
他のクラスと比べても、明るくて穏やかな生徒が多い印象だった。

隣の席の幼馴染みを見ると…絵本を読んでいた。
待ちに待った時間。本を開いて読み始めてから一瞬で朝読書の時間が終わったような気がした。

早く続きが読みたい。

その後の授業でも、半ば上の空で考え事。

「ね~え、私の話聞いてる~?」

「え?うん、聞いてる聞いてる」

授業の合間の休み時間。
いつもなら幼馴染みの話に付き合っていたけれど、引き出しに入れていた本を取り出して読書をしていると…

「ほら、こちょこちょこちょこちょこちょ~♪」

「ひゃぁっ!?ぁぁぁっあははははははは!!あはっひゃぁぁっあはははははは!!ひゃめっぇぇっ!!」

不意打ちで首の後ろを「こちょこちょ~♪」と指先でねちねちくすぐられる。

突然襲いかかるくすぐったさを予測できず、驚いて持っていた本を机に落としてしまい、抵抗する力も入らずされるがままにくすぐられ続ける。

「ほらほら、休み時間なんだからリフレッシュしないと駄目だよ~?もっと笑顔笑顔~♪こちょこちょこちょ~♪」

「ひゃっぁぁっわ、わかった!わかったからぁぁっくひゅぐるのひゃめてぇぇっぁぁぁっあははははははははは!!」

「え~どうしよっかなあ?じゃあさ、今日の放課後いっぱいくすぐらせてくれる?それならこちょこちょやめてあげるし、読書の邪魔しないから♪」

指先が首筋から腋の下に潜り込んで、くすぐったい窪みを容赦なくこちょこちょと責められる。

くすぐったくて頭が回らず、前半のところが聞き取れなかったけど、くすぐりをやめてもらおうと何かを約束してしまう。

「わ、分かりましたからぁぁ約束しますぅぅぁぁっあははははははははははははも、もうひゃめてぇぇっ!」

「ほんと?じゃあ放課後、約束だからね~♪」

くすぐっていた指先が離れると同時に、チャイムの音が鳴った。次の授業が始まる。

それからは何事もなく平穏に時間が進み、今日の授業が全部終わった。その頃にはすっかり約束のことなんて忘れており、本を読みながら帰ろうと準備をして帰路につく。

「ねぇねぇ、今日お家遊びに行ってもいい?あ、それとも私の家に来る?いっぱいこちょこちょしてあげるから♪」

「え…なんで??」

隣を歩く幼馴染みの発言に気を取られ、思わず足を止めて聞き返してしまう。

「え?何でって…約束したよね?放課後たくさんこちょこちょさせてくれるって言ったよね?」

「そんな約束…したかもしてないかもしれない……」

今日の午前中、そういえば”何か”を約束してしまった心当たりはあった。けど、まさかくすぐられる約束だなんて…

すーっと、幼馴染みの表情が冷たくなる。

「え?まさか覚えてないの?適当に約束したの?今ごめんなさいしたら聞かなかったことにしてあげるよ?」

そこで素直にごめんなさいしていれば良いものを、反抗して言い返してしまった。

「うるさいな…わかったって、また今度にしよ!!今日は続き読みたいから帰らせてよ!!」

「うるさいって言った??なにそれ?私のことより本読む方が大事ってこと!?そんなのいつでも読めるじゃん!私との約束破ってまでやりたいことなの?」

珍しく声を荒げる姿を見て、後退り。
だけど、退くに退けなくなってしまい、無理矢理にでもこの場を離れようとしてしまった。

「そ、それは…と、とにかく!今日は帰るから!!」

「ちょっと待ってよ!!」

「うわっ!?は、離せって破れるだろ!!」

手に持っていた本を掴み取られ、無理矢理引き剥がそうとする幼馴染み。対抗して取り返そうとしたとき…

ビリリッ!

「あっ!?」

紙が破れる鋭い音がして、反動で尻餅をついてしまう。
手には2,3枚の破れたページが握られていた。

「あっ…ご、ごめん、大丈夫?」

申し訳なさそうな表情で手を差しのべてくる幼馴染み。
母から買って貰った本が破れてしまったショックから、思わず手を払いのけて強い言葉を吐いてしまった。

「な、なにすんだよ!!!!ばかっ!!!!栞のばかっ!!二度と顔なんてみたくない!!!!!」

「えっ…ごめんなさ……」

涙を堪えて、一目散にその場から逃げるように。
もやもやとした心の霧を抱えながら自宅へと走っていた。

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心臓がバクバクと痛む。
全力で走ったせいか。心拍数が上がり息が苦しい。

玄関のノブに手をかけ、家野中へと入る。

「ただいま…」

この時間帯。まだお姉ちゃんは帰っていないし、母も仕事で家を空けているだろうと思っていた。

「おう、おかえり!あれ?どうした~そんなに暗い顔して?何かあった??」

「えっ!?あっ…あれ…お仕事は……?」

まさか自分の声に反応する人がいると思わず、ドキッとしてしまう。広間に母が立っていた。

「ん?今日は休みだって言ってなかったっけ。それより、どうした~?何か隠してることでもあるの?」

くすぐり拷問師の母に、何もかも見透かされている気がする。だけど、今さっき起こったばかりの事を切り出せず、部屋に逃げることを選んだ。

「な、何でもないよ!ちょっと鬼ごっこして疲れたから、休んでくる!!」

「そっ…か。」

意外にも、母は追いかけてこなかった。
制服から私服に着替えて、ゴロンとベッドに寝転がる。

「何であんなこと言ってしまったのだろう……」

今にも泣きそうな幼馴染みの顔が脳裏によぎる。
後悔と自責の念に駆られ、涙が溢れそうになる。

コンコンコン

「お~い、入るよ?」

母の声が聞こえ、ガチャっと扉が開く。

「あっ、えっ…な、なに…」

シャツの袖で涙を拭いて、ベッドの淵に腰かける。

「そっちこそ、なに?何かあったんでしょ?大丈夫だから、私に話してごらん?何か悲しいことあった顔してるよ?」

ベッドに座り、隣に腰かける母。
本が破れたこと、幼馴染みと喧嘩したこと…

何から話すべきだろうか…思案して黙っていると…

「へ~そっかあ~♪私にも話せないような悩みなんだ~?じゃあ…素直に話してくれるまでこちょこちょ拷問だ~♪」

「えっ!?ひゃっ!?や、やめっ!!」

まるで”ごっこ遊び”のようなテンションで母に仰向けで押し倒され、腰の辺りに馬乗りされる。

両手は頭の上で万歳させられて片手で押さえつけられ、目の前で指を見せつけるようにバラバラにこちょこちょと動かしている。

逃げようと腕や足に力を入れてみるも、しっかりと体重をかけて馬乗りされて大人の力で上から手首を押さえつけられると、非力な小学3年生では脱け出せる筈もなかった。

「今素直に何があったのか話してくれたらくすぐるのは止めてあげるけど、どうする?」

「ぅ…それは……その…ひゃっ!?あはっ!?ぎゃぁぁっぁぁぁっあはははははははははははははは!!!!ぁぁぁっくひゅぐっだぃぃぃっぁぁぁっあはははははははははひぃぃっひゃめっ、ひゃめてぇぇぇっぁぁぁぁっ!!! 」

「はい時間切れ~♪ほらほら、こちょこちょこちょ~♪くすぐったい?我慢できないでしょ~?早く白状した方が身のためだよ?」

いきなり服の中に手が侵入して、無防備なお腹や脇腹、腋の下を容赦なくこちょこちょと指先が這い回る。

ちょっと触れるだけでもくすぐったく感じてしまう凶器のような指先で、敏感な肌を軽くこちょこちょとされるだけでもひぃひぃと死ぬほど笑い狂わされてしまう。

首筋を撫でられ、顔をブンブンと振り回してくすぐったさを紛らわせようとするも無駄な努力だった。

「やめっ、ひゃめでぇぇぇぁぁぁっあははははひぃぃっ!!お、お願いだからぁぁぁっしぬぅぅぁぁぁっっぁぁっあはははははははははははははは!!お、おかひくなっちゃうからぁぁぁぁっあははははははか、勘弁してぇぇぇっ!!」

「ん~?やめて?じゃあ素直に話すって約束する?」

再び服の中に指を滑り込ませ、少し強めに脇腹をグニグニと揉み込まれて刺激される。

あまりのくすぐったさに、顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになり、笑い狂わされてしまう。

これ以上くすぐられるのはヤバい…
と、身体が悲鳴を上げる。

「ひゃぁぁぁっわ、わかりまじたからぁぁぁ言いますぅぅぁぁっな、何でもはなじますからぁぁぁぁっ!!はぁっ、げほっ、ごほっ、はぁっ、はぁっ、…ひぃっ……」

「やっと話す気になったんだ~♪じゃあゆっくりでいいよ。何があったのかな?」

だらりと口を半開きにして、ベッドの上で脱力しながら必死に息を整える。

ようやく呼吸が落ち着き、少しずつ今日起こった出来事を話し始めたのだった…。

**
「なるほど、ね。まとめると、学校で私が買った本を読んでいる時、栞ちゃんにくすぐられて何か分からないまま放課後約束をして、帰る時言い合いになって持ってた本が破れちゃって、ひどいこと言って帰って来た…。そういうこと?」

「うん…ごめんなさい……」

ベッドの上で正座しながら向き合って座っている。
話を理解した母は、冷静で真剣な表情をしていた。

「それは、何に対してのごめんなさいなの?」

「…えっ…?」

「本が破れたこと?嘘をついたこと?ひどい言葉を吐いたこと?それとも、全部に対してごめんなさいって言ってる?」

「ぜ、全部についてです…」

「そう…」と右手を前に伸ばす母。
またくすぐられる…!と思い、身構えて目を閉じてしまうと…

「そんなにびびらなくていいよ。私は怒ってないから。別に、本なんてまた買ってあげる。それよりもさ、反省してるなら、謝らないといけない相手がいるよね?」

優しく頭を撫でられながら、顔を覗き込まれてお説教。

「うん…栞に…ごめんなさいしたい…仲直りしたい…!」

「そう。それでいいんだよ♪ちゃーんとごめんなさいして、仲直りしてきなよ。あ、私もついて行ってもあげるから一緒に家行こうか?…ん…向こうが来たかな?」

ピンポーン、ピンポーン…

玄関のチャイムが鳴っている。誰か来たのだろう…

「はーい!!ほら、あんたも行くよ」

「…え、う、うん…」

手を牽かれて玄関まで着いていく。
母が扉を開けると…

「おっ、久々だね。今さっき話は聞いたよ。うちの息子がご迷惑かけて本当に申し訳ない!!」

「いえいえ!こちらこそごめんなさいね香子、…さっき本屋に寄ってね、新しい本買ってきたの。ほら、栞?」

そこにいたのは、栞のお母さんと、その陰に隠れる栞だった。手には一昨日行った本屋の紙袋が握られていた。

母にポンっと背中を押されて前に出る。

「ご、ごめんなさい!大事な本傷つけてごめんね。私も、少し熱くなっちゃったのかも…これ、新しいの買ってきたの!だから…仲直り…して…これからも一緒にいたい!!」

「こちらこそ、その、ごめんなさい!!約束破って…ひどいこと言って…本当に…ごめんなさい…二度とあんなこと言わないから…仲直りして…ください…」

お互い涙目になって、ごめんなさいして仲直り。
わだかまりも解けて、平穏な空気が流れる。

「じゃあこれで一件落着だね、あ。ところでさ、どんな約束してたの?」

「そうそう、それ私も聞いてなかったのよね~」

2人の母から視線を向けられ、栞が答える。

「えっとね、今日の放課後、いっぱいくすぐらせてくれるって約束してたの!ね~?そうだよね?」

「そ、そうだっけ………」

妖しい雰囲気になる中、ガチャっと、玄関が開いて誰かが入ってくる。

「ただいま~…ってあれ、茜のお母さんと栞ちゃんもいる。みんな玄関で何してるの~?」

「香織おかえり。丁度今ね~…」

お姉ちゃんが帰ってきて、話の輪に加わる。

「へ~そんなことあったんだ~。じゃあ、ちゃーんと約束は守らないと駄目だよね?」

「え?ちょっ、ま、待って!よ、4人がかりは聞いてなっ、ひゃっ!?ひゃぁぁぁっぎゃぁぁぁぁぁっあはははははは!!」

「こちょこちょこちょこちょこちょ~!!!」

お姉ちゃんに後ろから羽交い締めされて押し倒されて両腕万歳で押さえつけられてくすぐられる。

腰の上に栞に馬乗りされ、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべてこちょこちょ~♪と責められる。

母と栞のお母さんに足を1本ずつ押さえつけられ、足の裏を徹底的にねちねちとくすぐられる…

「ぁぁぁぁっごめっ、ごめんなさぃぃぃっぁぁぁっぁぁっひゃめぇぇぇっぁぁぁぁっははははははははは!!!!」

“仲直り”の意味を込めたくすぐりで、息も絶え絶えになるまでこちょこちょされ続けられたのであった。

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