就活

ジャンル:R-18小説 / 公開日:2019/06/07 /
「なあ?お前就活やってる?」
「いやまだ何もしてねぇよ。てか就活って何すればいいんだ?」
「さぁ…まぁなんとかなるっしょww」
…大学の講義中、後ろから頭の悪い会話が聞こえる。同じ4回生だろうか。もう4月が半分ほど終わったと言うのに、彼らは何をやっていたのだろう。まあ、何もしていないからあのような会話をしているのか。
中学生、高校生と、毎日特にやりたいこともなく、ただ漠然と過ごしていた結果、
世間ではFランと呼ばれる大学に入ることになった。いや、ここしか受からなかった。
高卒よりかは大卒の方がマシだろうという両親の意見もあり、大学生になったものの、周りにいる人間と関わる気になれなかった。
この大学に通っている生徒を大きく3つに分類できる。
1つ目は、ひたすら騒がしいやつ。
授業中とか関係なく、どんな時でもうるさい。
2つ目は、とにかくやる気のないやつ。
授業にも出ない、まず学校にもあまり来ない。当然就活もしてない。こういう人達は大体留年するか、行方不明になる。
3つ目は、普通の人間。
これはかなり少数派だ。ゼミに1人か2人いればいい方だろう。ちゃんと単位を取り、卒論を書き、就活にも真面目に取り組む。
僕は入学したときから、せめて就活だけは頑張ろうと決意していた。ここで頑張れない人間は、多分一生頑張れない。そんな危機感を入学式の日に感じた。
…早い内から、準備を重ねてきた。
履歴書の資格欄に書けそうな資格を勉強し、ESと筆記試験の対策も2回生からやった。企業分析はもちろん、自己分析、面接対策…。大学生活の全てを就職活動という目的のために過ごしてきたと言っても過言ではない。
そして、僕はある企業を第一志望に決めた。最近よくテレビに出ている、TSCという会社だ。5年前くらいに出来た比較的新しい企業で、「くすぐり」を実験し、社会に貢献するという変わった事業を展開している。具体的には、人がくすぐられることによって健康状態に変化はあるのか、また笑い声に含まれるエネルギーの活用、そしてくすぐりによる教育。いま世間では、ちょっとしたくすぐりブームになっている。
わずか5年程の間で営業利益を伸ばし、東証一部上場してしまうという化け物みたいな企業だ。そのため、年収も高い。大卒の初任給でなんと30万。就活生の間でも話題となっているのが、その応募条件だ。
それは、「くすぐられるのが好きな男性、または女性」及び「くすぐることが好きな女性」のみ。ちなみに学歴は不問。
女性と男性の比率は、9:1。
採用価値もあり、一番評価が高いのが
「くすぐりが得意な女性」。
その次が「くすぐられるのが好きな女性」
そして、「くすぐられるのが好きな男性」
この会社では、男性が女性をくすぐることは固く禁じられているらしい。
つまり希少価値の高いくすぐり上手な女子が最も採用人数が多く、社内での地位も高い。男性の場合、くすぐりの弱さと、くすぐりへの愛が試されるだろう。
実は、僕は昔からくすぐりフェチだった。
小学生の時、クラスの女子に集団で押さえつけられて泣くまでくすぐられた経験がきっかけで、くすぐりに目覚めた。
だから、くすぐりがブームになっていることに対してとても喜ばしいような、恥ずかしいような気分だ。
今は、この会社に入りたいという気持ちしかない。
…学歴フィルターで落ちることを懸念していたが、無事にESは通った。志望理由で昔からくすぐりフェチだったことをアピールし、さらに自分の弱点をさらけ出す。
実際に、「くすぐりに弱い箇所はどこですか?」という質問があった。
次に待ち構えていたのが、筆記試験だ。
今まで勉強していた就活用の試験内容ではなく、論文形式の記述問題。一部屋15人くらいの少人数で試験を行い、なんと、試験監督の女性社員に時々首の後ろや背中をくすぐられ、耳に息を吹きかけられることがある。「ひゃっひぃっ!?」と試験中に奇声を上げ、お姉さんにクスクスと笑われてしまった。おそらく、一人一人の感度をチェックしているのだと思うが、くすぐりによる妨害に気になって正直論述どころではなかった。
そして後日、自宅に筆記試験の結果が届いた。無事、合格らしい。
ほっ…と胸を撫で下ろす。
次は一次面接だ。面接日は6月1日。
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いよいよ、面接日当日。
他の大企業も6月から面接が解禁になるようだ。この日のために、準備を重ねてきた。
…筆記試験の合格の知らせと共に、次の面接の詳細用紙が入っていた。
実技試験らしい。女性はリクルートスーツを着用すること。男性はスーツではなく、
半袖、短パンという格好で来るようにと。
これは、どっちだ!?
私服で来いと書かれているが、実はスーツが正解なパターンか、それとも本当に私服でいいのか…。数分自問自答を重ね、ネットで検索した結果、私服でいいことが分かった。
実技試験…ということは、くすぐられるのだろうか。くすぐりには弱い自信があったが、念のためもっと弱くなるようなイメージトレーニングを重ねた。自分がくすぐられている所を妄想しながら…
…その練習の成果が今日試される。
新品の白いTシャツに、短パン、スニーカーというラフな格好で面接会場に向かう。
端から見たら誰もこれから就活の面接に行くのだとは思わないだろう。
朝の9:30分に集合。
その15分前に着くように余裕を持って家を出た。意を決して自動ドアをくぐる。
…面接会場の控え室に案内される。
女性と男性で部屋は違うようだ。
自分と同じようなラフな格好した男たちが15人ほどいるようだ。
一人ずつ名前を呼ばれ、部屋から立ち去っていく。気づけば最後の一人となっていた。
「大変お待たせ致しました。ではご案内致します。」
スーツを着た社員のお姉さんに案内され、
いよいよ扉の前に立つ。
「ふぅ…」
軽く深呼吸をする。ノックは3回。
「失礼します!!」
赤い絨毯が敷かれた部屋。
机に3人の女性の面接官が座っている。
それと向かい合うように、パイプ椅子が6つ。既に5人の女の子が座っており、一番右側の席が空いていた。
「どうぞ、おかけになってください。」
「はい、よろしくお願い致します!」
何故か部屋の四隅に女性社員が立っている。見張られているようだ。
「では、これより実技試験を始めます。その前に諸注意を述べるので、よく聞いておくように。まず始めに、制限時間は25分とします。女性陣は全員で協力して、右端に座っている男性をくすぐって降参させてください。見事降参させることができた場合、女性陣は全員一次試験合格とします。男性の方はこの部屋の中でできるだけ逃げ回ってください。ただし、外に出ることは禁止します。また、暴力は勿論、過度に抵抗することも禁止します。違反があった場合、我が社の社員による懲罰プログラムを受けて貰うので、そのおつもりで。
ここまでで何か質問はありますか?」
「はい!」と左端の女性が手を挙げる。
「どうぞ。」
「道具の使用は可能でしょうか?例えば、男性を押さえつけてロープで拘束するなどの必要があると思いますが。」
「拘束具や羽、筆などの道具の使用は禁止します。男性を拘束する場合は四肢を押さえつけるなど、力ずくで行ってください。くすぐり方は問いません。耳に息を吹きかける、舌で舐めるなどもありとします。また、パンツ以外の衣服を脱がすことも許可します。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
僕は思わず立ち上がる。
「実技試験とはいえ、あまりにも男性に対して不公平ではないですか?5人がかりでは圧倒的に不利といいますか…」
「何かご不満ですか?あなたの書いたエントリーシートには、『私は女性に押さえつけられてくすぐられるのが大好きです』と書かれていましたが…本当は内心嬉しいのではないですか?」
「うっ…」
面接官はニヤニヤしながらこっちを見つめ、隣にいるリクスーの女子たちは軽蔑したような視線で自分を見ている。
「いえ…何でもないです。」
「そうですか。それでは、試験を開始します。よーい、スタート!」
一斉に女の子達が立ち上がり、僕を取り囲もうとする。この狭い部屋の中で逃げ回るのは得策ではない。必死に抵抗している感を出しながら壁際に走る。
そして、じわじわと追い詰められ、
2人の女の子に両腕を押さえられる。
「ほら!大人しくしろよ変態!!」
「やめろ!はなせよっ!!」
多勢に無勢で部屋の中央まで引き摺られ、
両手両足を大の字で拘束されてしまった。
左腕、右腕、左足、右足の上にリクスーの女の子達が一本ずつ座り、動けないように太ももで挟み込む。そして、腰の辺りにも一人女の子が座り、完全に抵抗できない!
どの女の子も猟奇的な目で、まるで獲物を狩るように手をワキワキとさせる。
そして、
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪
「ぷっっぎゃぁっひゃぁぁぁぁっははははははひゃめぇぇぇぇ!!!ぃゃめてぇぇぇぇ!!!」
左腕を固定する女の子は、首筋や左腋の下をカリカリと容赦なくくすぐる。
シャツの袖から指を滑らせて、細長い指でピアノを弾くようにこちょこちょ…
右腕に座っている女の子は、腋の下や首筋、乳首をこしょこしょとくすぐりながら、時々耳に息を吹きかけてくる。
その度にビクン!と身体が反応してしまい、さらにくすぐったさを感じる。
左足、右足を固定する女の子たちは、膝の辺りに座り靴と靴下を脱がせて足の裏をこちょこちょ…。片方の手で指を反らせるようにして土踏まずを爪でガリガリとくすぐったり、足の甲や指の付け根を細かくこしょこしょとくすぐる。
そして、腰の辺りに座る女の子は、脇腹やあばらのツボをグリグリとくすぐる。
かなりのテクニシャンで、正直泣くほどくすぐったかった。
最初は正直少し興奮していたが、女の子達の上手すぎるくすぐりにそんな余裕は無くなっていた。
こんなにくすぐられたのは小学生ぶりだろうか。涙目になり、前が見えない。
恥もなにも無く「もうひゃべてぇぇぇ!」と涎を垂らしながら泣き叫び懇願する姿を眺めながら、女の子たちは淡々と、容赦なくこちょこちょする。
「試験時間は後5分です。」
時間が長く感じたが。もうすぐ終わりだ…!
しかし、中々降参という言葉を言わずに笑い悶える僕にシビレを切らしたのか、少し焦ったようにさらにくすぐりの手が強まる。
「ほら、早く降参しなさい!!!」
「ぁは…ぎゃぁっはははらめ…こうひゃ…こうしゃんしまひゅ…」
息も絶え絶えで何とか降参を伝える。
「そこまで!!試験を終了します。」
面接官のその一言で、ようやく女の子たちの手が止まり、四肢を解放される。
「本日の試験は以上です。お疲れ様でした。結果は後日お伝え致します。どうぞ、気を付けてお帰りください。」
未だに絨毯の上から動けずにいる僕を尻目に、女の子達が退室していく。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「はぁ…ひっ…は…はひ…」
身体に力が入らない。
5分ほど動けずに呼吸を整えるのに必死だった。
「どうぞ。着替えは持ってきていますか?」
「ありがとうございます…いえ、持ってないです」
面接官の一人がペットボトルの水を持ってきてくれた。喉を潤す。
くすぐりのおかげで、全身汗だくだ…早くシャワーを浴びたい。
「こちらへどうぞ。着替えも用意してありますので、よろしければ差し上げます。」
なんと、面接の後にシャワーを貸して貰い、さらに着替えまで用意されているとは思わなかった。さすが大企業だ…
その日は家に帰ってからすぐに眠りについた。
次の日、「いてっ!?」
お腹の筋肉痛を経験した。
もう暫くはくすぐられたくないとすら思える程だった。
お昼過ぎ、家に速達が届いた。
TSC社から。えーと、……
「一次試験合格。二次面接は来週…」
まさか、合格してるとは思わなかった。
内定に向けて、これからもっときつい試練が待ちかまえているのだろう。