プール

ジャンル:お姉ちゃんとの思い出 / 公開日:2018/08/17 /
「ねぇ!プール行こうよ!!」
小学生になって、4回目の夏休み。
暑い夏。陽炎が揺れる8月の休み。
特に出かける予定もなく、僕はクーラーの効いた部屋の中でゴロゴロする生活を送っていた。
「ねぇ、せっかくの休みなんだし、外で遊んできなよ。」
「えー、だって外暑いんだもん…」
暑い正午の昼下がり、お姉ちゃんはリビングのソファーに座って本を読んでいた。
今日も何事もなく穏やかな日を過ごせそう…
ピンポーン、ピンポーン…
そう思っていた矢先、玄関のチャイムが元気に鳴り響いた。誰だろう…
「はーい」
お姉ちゃんが玄関へと向かう。
その後から、僕もついていくと…
「よっ!元気!?」
聞き慣れた声。出てきたのは、幼馴染の栞だった。白のワンピースにサンダルを履いた夏っぽい格好をしていた。
「あら~栞ちゃん久しぶり。元気だった?」
「お姉さんこんにちはー!元気です!!」
「うんうん。やっぱり小学生はそのくらい元気なのが一番よね~?」
お姉ちゃんがチラリと横目で見てくる。
「お、俺も元気だったよ!?」
「ふ~ん?どうせ夏休み始まってから、ずっと家でゴロゴロ寝てたんじゃないの?」
な、なんで分かるんだよ栞…
「まぁいいや!ねぇ、今からプール行こうよ!良かったらお姉さんも一緒に行きませんか?」
プール…家から歩いて20分くらいの所にあるあそこかな…。幸いなことに、泳ぐのは別に苦手じゃなかった。
「あら~いいわね!プール!私は久しぶりに行きたいかも!」
意外とお姉ちゃんが乗り気だ…
え、いやでも幼馴染とお姉ちゃんとプールで遊んでる所をクラスの誰かに見られたらどうしよ…
「う~ん…いやでも…」
「え~??一緒にプール、行かないの~?」ワキワキ
「行かないんだったら…」ワキワキ
「い、行く!行きます!!」
呼吸を合わせたかのように指をワキワキさせて見せつけてくる栞とお姉ちゃん。
「うん、えらい!後でアイス買ってあげようね~♪」
珍しくお姉ちゃんが優しく頭を撫でてくれる。その様子を見て、栞もニコニコしていた。恥ずかしいんだけど…
「よし、じゃあすぐ準備してくるね。栞ちゃん中で涼んでて!」
「はーい!お邪魔しまーす!!」
…まだまだセミが鳴いている、午後2時前。
僕たちは、歩いてプールまで向かった。
平日のお盆になる前とはいえ、プールにはそれなりに人は集まっていた。よかった。
学校の知り合いはいなさそう…
「わーいプールだぁー!!ねぇ早く泳ごうよー!!」
「その前にちゃんと準備体操しようね~」
プールにきて、一段とテンションが上がる栞。僕も栞も、学校のスクール水着を着ていた。お姉ちゃんはビキニ…?の水着を着ている。
「ねぇ、どうしたの?もしかして、栞ちゃんの水着姿見て照れてるの??」
「なっ、ち、違うよ!!」
お姉ちゃんが小声で耳元に話しかけてきた。照れてないし。
「冷たい!きもちー!!」
軽く体操して、真っ先にプールに飛び込む幼馴染。なんでそんな元気なんだろ…
「ほんとだー!気持ちいいね!」
お姉ちゃんも、いつもより何だか楽しそうにしてる。その様子を見ていると、僕も少しだけ楽しい気持ちになる。
「ねえ、3人で競争しようよ!一番ビリだった人がこしょこしょの刑ね!よーいどん」
「あっ、待ってよ!!」
50mのプール。栞とお姉ちゃんに出遅れる形で泳ぎ始める僕。必死に泳いで向こう岸までたどり着くが、どうやら一番ビリだったようだ…。
「はい、私とお姉さんの勝ち~!じゃあ罰ゲームね??」
「はあっ、はあっ、ひ、卑怯だってぇ」
「女の子なんだからハンデよ。ね~?」
お姉ちゃんまで…。両腕を挟まれ、栞とお姉ちゃんに子ども用の浅瀬のプールへと連行される。
「はい、じゃあここに横になってバンザイしてね。お姉さん腕押さえてて下さい!」
「分かった!栞ちゃんお腹と脇腹お願いね♪」
あっという間に棒の字に拘束される。
腰の辺りに栞が馬乗りになって、両腕を真っ直ぐ伸ばした状態でお姉ちゃんが座って押さえつける。当然、水着なので上半身は裸の状態で…。
「あっ、や、やめ…」
「覚悟はいいかな~?3、2、1こ~ちょこちょこちょこちょ~♪」
「ふふっ♪こちょこちょ~♪」
「ひぃぃぎゃっぁぁぁははははは!ぁぁひゃぁぁぁめてぇぇ、くっ、あ~はっひははく、くすぐったい~!!ぎゃぁぁぁっだめぇぇぇ!!!!!」
栞はお腹や横腹を爪を立てて素早くこちょこちょしたり、ツボに指を突きさすようにしてグリグリとくすぐってくる…!
お姉ちゃんは閉じられない無防備な腋の下を細長い指で執拗にくすぐり、時々弱い首の下を意地悪くこちょこちょとくすぐる。
「こちょこちょ~♪ねぇどう?くすぐったい?プールなんだからもうちょっと静かにしなよ~♪」
「そうよ~、静かにしなさい!ほら、楽しそうに笑ってるから、みんな集まってきちゃったよ??」
え…みんな…?
くすぐられながら精一杯首を起こして周りを見ると、幼稚園児のような女の子や、小学生の低学年の子ども達が何人かこちらを興味深そうに見ていた。
「ねぇ!良かったらこのお兄さんこちょこちょするの手伝ってよ!!」
「ちょっぁぁはは!し、しおりなにいってるのぉぉぉだめぇぇぇぜったいだめだからぁぁぁぁっははぎゃぁぁぁはははは」
ええーいいのかなー。
すっごいくすぐったそう!
わたしもこちょこちょしたい!
最初は戸惑っていた子ども達も、1人がくすぐり始めるとつられるようにしてくすぐり始める。
足の裏や太もも、おへそ、首筋など、身体のくすぐったい所を小さな指が埋め尽くす
その様子を、お姉ちゃんは静かに、しかし的確にくすぐりながら眺めていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁむりぃぃもうむり!やめてぇぇぇおねがいだからぁぁぁお姉ちゃん助けてぇぇぇ!!もうやめでぇぇぇぇ」
「え~?どうしよっかな~?」
「おねがいじますぅぅお姉ちゃぁぁぁんたすけてぇぇぇぎゃっぁぁぁはははは」
「じゃあ、いい子になるって約束する?」
「するぅぅぅ!!約束しますからぁぁぁいい子にするからぁぁぁおねがいだからぁ」
あまりのくすぐったさに考える余裕なんてなく、恥ずかしさよりもくすぐられる辛さが勝っていた。
じゃあ、約束だからね。
僕の言葉を聞いて、お姉ちゃんはみんなに声をかける。
「はい、みんなくすぐりストップ!みんなのおかげでこのお兄ちゃんいい子になるって約束してくれたから、そろそろ止めてあげよっか!手伝ってくれてありがとうね」
その言葉で、くすぐっていた指が離れて、
僕はくすぐりから解放された。
「いい子になります~だって!恥ずかしくないの~??」
「う、うるさ…何でもない」
くすぐられていたからとは言え、幼馴染にこんな姿を見せるのは恥ずかしかった。
プールの帰り、お姉ちゃんがコンビニで僕と栞にアイスを買ってくれた。
久しぶりに体を動かして、疲労感と眠気に襲われそうになる。
「今日は楽しかったー!!また遊ぼうね!お姉さんもありがとうございました!ばいばーい!!」
まだまだ元気そうな栞と別れ、お姉ちゃんと家まで帰る。
「な、なに…?」
いきなり、手を繋いでくるお姉ちゃん。
「ん?何でもないよ。帰ろ♪」
喧嘩したり、怒った時のお姉ちゃんは本当に怖いけど、優しい時のお姉ちゃんはそれ以上に好きだった。
空がオレンジ色になって、ひぐらしが鳴き始める。
「ねぇ。」
「なあに、お姉ちゃん」
約束、忘れないでね。