入学式とお花見

ジャンル:栞との思い出 第二章 / 公開日:2018/04/05 /
…ねむい。今何時だろ…。
お布団が暖かい…もう少しだけ眠ろう…
そう思い一度開けた瞼を閉じかけた時、体から布団の重みが消えた。
「…さぶい…なに…ぃひゃははははははは!!あーはっははははひゃめ、ぎゃはははははは!!くすぐったい!!やめてぇぇ!」
寝ぼけていた意識が強制的に目覚める。
うつ伏せに馬乗りされ、脇腹や首筋をこちょこちょされ、それと同時に足の裏もしっかりと固定されてガリガリと引っ掻くように土踏まずをくすぐられている…!
ん…え…?え!?
「んぎゃははは!!だ、だれぇ!!誰がくすぐってるのぉぉ!!あーひゃはははは!!きつい、もうやめてぇぇ!!!…はぁ…はぁ」
くすぐられていたのは数分程だと思うが、朝からすごく疲れた…。やっと背中から誰か降り、体を起こすと…
「よ!おっはよ~!!気持ちよかった??
お姉さんに聞いたらまだ寝てるっていうから、部屋に入れてもらっちゃった♪」
栞!?え、なんで?何でここにいんの!?
俺の部屋なんだけど…
「早く起きなさいよ、全く。今日栞ちゃんと一緒に入学式行く約束してたんでしょ?」
そうだった…そんな約束、してたっけ…
今何時…?7:30か…学校は8時に出れば間に合うはず…!!
「あ~あ、誰かさんのせいで朝から疲れちゃったな~。」
思わず言ってしまったが、すぐに後悔した…
「…せっかく起こしてあげたのに、そういうこと言うんだ~」ワキワキ
「…誰かさんって、もしかして私のこと?」
「ひぃぃぃぃ!!ごめんなさいごめんなさい!!冗談です!すぐに準備しますぅ!!」
逃げるように洗面所へと向かう。
顔を洗って歯を磨いて、寝癖直して…
制服を着る。カッターシャツに袖を通す。
「今日から、高校生なんだな…。」
少しぶかぶかな紺色のブレザー羽織り、スクールバッグを持って家を出ると、門の外で栞が待っていた。
「お、やっと来たか!…制服の襟立ってるよ?直してあげる。」
反射的にくすぐられると思い、目を瞑ったけど、こそばい刺激はこなかった。
「はい!直したよ~。何で目瞑ってんの?もしかして…照れてるの!?私の生脚に見とれちゃった!!?」
「な…!!そんなわけないだろ!!」
女子の制服も紺色で、スカートとシャツとブレザーが指定されている。栞は「紺色なんて地味で嫌だ~」とか行ってたけど、案外似合ってると思う…
「ん?なに?何かいいたそうな顔してるけど…」
「な、なんでもない!!学校いこ!!」
栞と同じ高校に通うとはな…。
地元の少し偏差値の高い高校で、家から徒歩20分。お姉ちゃんと栞に押されて受験し、無事に合格できた。
別に不満はないんだけど、地元の人とか、同じ高校に通う人に一緒に登校してるところを見られるのは、少し恥ずかしい。
「桜咲いてる~!きれい…後でお花見しようよ!!」
「いや、早く行かないと遅れるってば…」
春の陽気で、空は快晴。
絶好の入学式日和だな。
桜並木を通り、坂の上にある学校へと歩く。
通学路には、同じ新入生と思われる人達の期待と緊張が溢れていた。
校舎に入ると、何やら掲示板の辺りに人が集まっているようだった。クラス分けかな。
「ねぇ、同じクラスになれるといいね。」
自分の名前を1組から順に探していくと…
「あ、あった」
さっそく自分の名前を見つけた。
クラスは1組に決まったようだ。
栞は…1組!?同じクラスだ!!
「やった~♪よかった~同じクラスで!!」
隣を見ると、栞が安心したような顔で喜んでいた。
1組の教室へ入ると、みんな静かに自分の席に座っていた。えっと…席はどこだろ。
黒板に張り出された座席表を見ると…
「窓際の前から3列目か。」
その隣の席は…
「いや~こんな奇跡みたいなことあるんだね!!」
栞かよ…。すごいな。幼馴染とはいえクラスだけでなく席まで近いとは…。
「確かに奇跡だな…。」
そう呟いた時、教室の扉が開いて、先生が入ってきた。女の先生だ。ロングヘアーで眼鏡をかけていた。
「…おはよう。今日から1組の担任を務める、橋本麻奈美だ。授業は国語を担当することになる。1年間よろしく。」
…さっぱりとした口調だった。
熱血ではないけど、冷たくもない、芯のあるような声だった。
「さて、入学式だが、10時過ぎから始まることになっている。先生は今から式の準備に行くから、それまで近くの人と自己紹介でもして待っているように。」
それだけ言うと、スタスタ教室から出ていってしまった。ざわざわざわ…
緊張の糸が解けたかのように、クラス中で話し声が聞こえる。
「なんか、すごい先生だね!!」
「そうだね…」
栞と話していると、僕の後ろの席の人から話しかけられた。
「ねぇ、自己紹介しようよ!俺は[[rb:宮内涼 > みやうちりょう]]!よろしく~!!」
チャラそうなイケメンがいる…それが第一印象だった。
「橘です…よろしく。」
「私、栞って言うの~!よろしく~!!」
「橘くんに栞ちゃんね、よろしく!
ねぇねぇ、二人ってさ、仲良いの?朝一緒に歩いてたけど、付き合ってんの??」
「な…!?付き合ってないって!!ただの幼馴染だから!!」
栞と付き合ってる…?そんなわけ…
ただの幼馴染みだよな、ふと栞の方を見ると、なぜだか少し悲しそうな顔をしていた。
「なんだ、幼馴染みなんだね!!あ、先生戻ってきたよ!!」
ガラガラと教室の扉が開き、橋本先生が戻ってきた。賑やかだった教室が一気に静まりかえる。
「おまたせ。式の準備ができたから、静かに廊下に出て、適当でいいから2列で並んで体育館に行くように。先導は私がする。」
そういうと、先生は先に教室から出てしまった。…う~ん、適当なのか、ちゃんとしてるのか分からない人だな…。
体育館には、新入生、在校生、先生、保護者の人々で溢れていた。今年の新入生は200人弱いるらしい。
校長先生の話や、担任の紹介で30分。在校生による歌や部活の紹介で30分…計1時間くらいで入学式は終わった。
…「改めて、入学おめでとう。今日はこれで解散だが、明日から授業が始まるので、教科書を忘れずに持ってくること。以上。気をつけて帰るように。」
式が終わり、教室に帰ってからホームルームがあり、昼過ぎに解散となった。
「じゃあ、また明日!!ばいばーい!!」
涼くんはすぐに荷物をまとめて帰ってしまった。さて、俺も帰るかな…
「ねぇ、一緒に帰ろ?あ、今日さ、一回家に帰ってからさ、お花見行こうよ!!」
…どうしよう。栞とあんまり二人でいるのも、恥ずかしいしな…
「いや、今日はひとりで散歩したい気分…」
「じゃないや、一緒に帰ろ、栞?」
断ろうとしたけど、栞の少し泣きそうな顔を見てしまった。あんな表情、初めてみた。
…何かあったのかな?もしかして、俺なんか悪いことしたかな…。
「うん!かえろ~!!」
良かった。いつもの笑顔。
学校の玄関を見て、駐車場の陰で煙草を吸ってる高橋先生をみつけた。
「あれ?先生、煙草吸ってる…」
学校、禁煙じゃなかったっけ…。
こちらに気づいた先生は、何事もなかったように煙草の火を消し、近寄ってきた。
「…君たちは何もみてなかった。いいな?」
「「は、はい。」」
「初日から二人揃って登校し、二人揃って下校か。仲のいいことだな。あんまり寄り道せずまっすぐ帰るように。では、また明日。」
え…先生にも見られてたのか…
顔から火が出るほど恥ずかしかった。
[newpage]
家に帰ってから、お昼ご飯をたべた。
お姉ちゃんは出かけているのか、誰もいなかった。
とりあえず栞と15時から近くの公園でお花見することになった。お花見か…。団子でも買って行くか。
制服を脱いで、ラフな私服に着替える。
「付き合ってる…か。」
今日クラスメイトに聞かれた質問が頭にひっかかる。僕と栞の関係は、付き合ってるって言うのかな。昔からの幼馴染みなだけだと思うんだけど、外からみたらそうじゃないのか。
一緒に歩く、一緒に遊ぶ、家に遊びに行く、
今までは深く考えたことなかったけど、これが栞じゃなかったら、なんか、付き合ってるっぽい感じする。
栞とは、仲のいい幼馴染み。
それ以上でもそれ以下でもない…はず。
「う~ん…。」
そんなことを考えてるうちに、約束の30分前になった。そろそろ行くかという時に、お姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいま。入学式どうだった?…あら?今からどこか行くの?」
「お姉ちゃんお帰り。ちょっと栞とお花見行ってくる。」
「そう。あんまり遅くならないようにね。」
自転車で15分くらいの公園。春は屋台も出て、たくさんの人がお花見にくる。
公園の前に着くと、栞が待っていた。
「ごめんごめん!待った?」
「ううん!早く桜見に行こうよ!!」
自転車を停め、公園の中を散歩する。
ちょうど満開の桜で美しかった。
わたあめ、たこ焼き、焼き鳥…
美味しそうな屋台も並んでいた。
「ねぇねぇ!!お団子買おうよ!!あれ!」
栞が指差した先に、みたらし団子を売ってる屋台があった。3本で100円!?食べたい…
「すいませ~ん!みたらし団子6本下さい!」
栞は、いつの間にやら屋台の方に走って、みたらし団子を買っていた。
「はい!みたらし団子!あのベンチに座って食べようよ!!」
「あ…お金…」
代金を渡す間もなく栞に手を引かれてベンチに腰かける。
「いいよ。私が誘ったんだから、私の奢りで!…食べよ?」
「ありがとう…いただきます!」
…美味しい、この団子焼きたてだ!
栞から奢ってもらうのなんて、初めてかもしれない。
団子を食べながら、しばらく二人で無言で桜を見つめていた。お互いが食べ終わり、落ち着いた頃に、栞が口を開いた。
「…ねぇ。私のこと、どう思ってるの?」
どう思っているの…か。
家を出る前に考えていたことを思い出す。
僕にとって、栞は…
「…正直、自分でもよく分からない。栞は栞であって、それ以上でもそれ以下でもない」
「…ばか。」
そう答えた後、栞は小さくそう呟いて、走り去ってしまった。追いかける気には、なれなかった。
自分でも、どう答えたらいいのか、どうすれば良かったのか、分からなかった。
家に帰ったあとも、ずっと今日の出来事で頭がいっぱいだった。
夜ベッドに横になって、寝ようとする時、携帯にメールが来た。栞からだ…。
「本文
今日は私からお花見誘ったのに、一人で先帰っちゃってごめんね。これからもよろしくね、また明日学校で会お!!おやすみ 」
…「こちらこそ、今日はごめん。また明日。
おやすみ。」
返信した。明日、栞に謝った方がいいのかな…。とりあえず寝よう…。
携帯を手に握りしめたまま、眠りについた。