卒業式

 

ジャンル:番外編 / 公開日:2018/03/09 /

       

3月の初め。
陽射しが柔らかくなるころ、中学校の卒業式が行われた。涙に包まれながらも、無事に式が終わり、卒業生たちはそれぞれの教室に戻っていった。
僕は、級友や先生との別れをそこそこにして、教室を後にした。廊下では、幼馴染みの栞が友達と話しているのが見えた。

「…まあ、帰るか。さよなら中学生活」
外に出ると、卒業を向かえた同級生たちが写真を撮ったり、談笑している小さなグループや、保護者の声に溢れていた。
自分の親は、仕事で来れず、姉も用事で来れないらしい。
ひとり、式の余韻に浸りながら、静かに校舎の門を出ようとすると、突然背中に衝撃を受けた。

「いてっ!なんだよ!!」
「ちょっと~!!私を置いて一人で帰るなんてひどいよ!一緒に帰る約束したじゃん!」
そんな約束、した覚えないんだけど…。
後ろを振り返ると、走ってきたのか、息を切らして少し怒ったような顔をしている栞がいた。

「え、栞、友達と帰ったりしないの?
親は…?」
「お母さん今日来れないみたいなの。友達とはもう挨拶してきたよ!窓みたら君がひとり寂しく帰ろうとしてるから、追いかけてきちゃった。仕方ないから一緒に帰ってあげる」
「いや、なんとなく遠慮しとく。」
「え…?イヤなの…?私と帰るのが?」ワキワキ

こちょこちょこちょこちょ~!!

「ご、ごめんごめん!一緒に帰るから、怒んないでよ…!」
「…じゃあ、お詫びに手繋いで?あと寄り道して帰ろうよ」
「まあ、寄り道はいいけど、手は恥ずかしいって!」
「あれ?あれれ~?もしかして私と手を繋ぐの照れてるのかな~!?」
「あ~もう、わかったよ!!ほら、帰ろ」

結局、押しきられるようにして幼馴染みと手を繋いで帰ることになった。
卒業式だからなのかな。今までと比べて、栞の様子が変というか、積極的な気がする。
手を繋いで帰ろうって言ってた割りに、いつもお喋りな栞が今日はあまり喋らない。
なんか恥ずかしい…知り合いに見られたくない

「なんか、手を繋ぐの、初めてだね。」
「そうだね~♪こんな可愛い女の子と手を繋いで歩けて、どんな気持ち?」
「…(嬉しくないって言ったら殺される)
嬉しい…です。」
「本当に~?私も嬉しいよ♪」

山の上にある学校から、住宅街を通って、少し違う道を歩いていた。次第に、辺りは田んぼに囲まれ、公道には車が全く走ってない…

「…って、ここどこだ!?」
「あはは!!どこだろね!?」
あははじゃないよ…迷子になってるじゃん…
栞の「ちょっと寄り道して帰ろうよ!」という提案に乗った俺が馬鹿だった…

「だ、大丈夫だって!ほら、一本道だからさ、来た道戻ればいけるよ!!」
「…栞、ちゃんと来た道覚えてるの…?」
「…どっちから歩いてきたっけ…!?」

もう…絶望的だ…。
時間は多分夕方くらい。少し空が陰って、風が肌寒くなってきた。相変わらず辺りに車も人の気配はなかった。
ちなみに栞も僕も、携帯電話は持っていなかったから、家に電話を掛けることはできなかった。

「…帰りたい…」
「大丈夫だって~!なんとかなるよ~!
ほら、そんな泣きそうな顔しないでよ!!」

楽観的な栞と比べて、僕は今にも泣きそうだった。

「元気だしてって!!えいっ!!」

道に体育座りで座っている僕を、栞がいきなり押し倒してきた!

「うわっ!!あ、危ないよ!!」
「大丈夫大丈夫~♪どうせ車なんて来ないんだから!!」

大丈夫じゃないよ、それ…
仰向けの状態でマウントポジションをとられ、ブレザーを脱がされてしまった。

「ほら、私が元気づけてあげるね♪
こ~ちょこちょこちょこちょこちょ~‼️」

ひぃ!ぎゃはははは!!や、やめてぇぇ!!あははははははは!!!くすぐったいって!
ひぃぁぁははははは!!そこだめ、やめ!
だれかたすけてぇ!!!あはははは!!

薄いカッターシャツの上から、腋の下や、脇腹のツボをモミモミ、グリグリされる。
あまりのくすぐったさに、強制的に笑い声をあげてしまう。辺りには、自分の大きな笑い声が鳴り響いていた。

「こちょこちょ~♪あ…!向こうから車が来るよ!!お~いお~い!!」
「はぁ…はぁ…ひぃ…え…あれって…」

見ると、向こうから1台のパトカーが走ってきて、僕たちの目の前で停まった。中から、二人の女性警察官が出てきた。

「こんばんは。警察です。近隣住民から中学生くらいの男女が公道でくすぐり合って遊んでいるという通報を受けたんだけど、君たち何してるのかな?」

「ごめんなさい!!私達、学校から帰る途中に迷子になってしまって、幼馴染みが不安そうな顔をしてたから、元気づけようと思ってくすぐって遊んでいました。全て私の責任です!!本当に迷惑をお掛けしてすいませんでした!!!」
「ご、ごめんなさぃ…」

「…事情は分かりました。でも公道でふざけて遊ぶのは本当に危険だからもう二度としないこと。分かった?」
「「ごめんなさい!!」」

それから、パトカーに乗って、それぞれの家まで警察の人に送ってもらった。
家の前に着くと、仕事から帰った母が飛んで出てきて、何度も警察の方に頭を下げていた。こんな姿を見るのは、初めてで、胸が痛くなった。
先に家の中に入らされたけど、しばらく母は何かを話していた。
その後、母と姉にきつくお説教された。
…くすぐり殺される…。
覚悟はしていたけど、その日は、お説教だけで許して貰えた。

…栞、大丈夫かな…。
あとから電話で聞くと、栞の家でも、帰ってからこってりとお説教されたらしい…。

「ごめんね、今日は私の責任。本当にごめんなさい!!」
「いや、栞だけの責任じゃないよ!僕がしっかりしてないのも悪かった。ごめん。それに、元気づけようとしてくれて、ありがとう。…また今度、遊びに行こ?」

春休みが終われば、高校生になる。
栞と同じ、地元の公立高校に通う。
それはまた、次章のお話。

「これからも、よろしくね?」

閲覧はこちら

戻る